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JFFロシア『海獣の子供』上映を終えて——STUDIO4℃田中栄子プロデューサーインタビュー

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2019年12月、アニメーション映画『海獣の子供』(2019)が、国際交流基金の主催する「第53回日本映画祭」(JFFロシア)で上映された。日本の田舎町で暮らす中学生・琉花は、ジュゴンに育てられたという海と空という兄弟に出会い、まだ見ぬ世界へと飛び込んでいく——大自然に触れ合う彼らのひと夏を繊細なタッチで描いた本作。制作を手掛けたのは、アニメーション制作会社「STUDIO4℃」。サンクトペテルブルク、モスクワでの上映に参加し、Q&Aに登壇した同社の田中栄子プロデューサー(以下、田中)にお話を伺った。

Children of the Sea

©️2019 Daisuke Igarashi・Shogakukan-“Children of the Sea” Committee

ロシア日本映画祭で『海獣の子供』が上映され、Q&Aも行われました。観客の反応はいかがでしたか。

田中: 登場人物の動きやキャラクターの個性に反応してくれているところが印象的でしたね。Q&Aでも、作品の持っている本質的なところをもっと深く知りたいという質問が多かったように思います。ものすごく丁寧に熱心に作品と対峙してくださったからこその質問だろうと思うので、印象深かったです。

上映が終わるまでは、本作がロシアの観客に受け入れられるのかどうか、不安に感じていらっしゃるようでしたが、実際はいかがでしたか。

田中:もともとロシアのひとたちは、ドストエフスキーの小説をはじめとして、哲学的なものにも造詣が深く、すごく忍耐強いというイメージをもっていました。それだけにこの作品が彼らの関心や興味にしっかり届くのかなと不安ではありました。特に『海獣の子供』の示す真摯な姿勢が、ロシア人の死生観と一致するのかどうかはすごく不安でしたね。

Children of the Sea

©️2019 Daisuke Igarashi・Shogakukan-“Children of the Sea” Committee

Q&Aを通して、深いところまでちゃんと伝わったなという手応えはありましたか。

田中:うーん、そうですね。人の死が描かれる作品なので、難しいところはありますよね。死ぬことに対して人は否定的ですが、そこをあえて肯定的に描こうとした作品なので。ロシアだから特別に難しいというわけではなく、もともとこの作品が秘めているポテンシャルそのものが、なかなか説明しにくいものを含んでいますし。

死生観も含め、日本人のほうがより受け入れやすい作品なのかもしれません。

田中:そうですね。日本人のほうがもう少し気楽に作品のテーマを受け入れてくれていたのかもしれないです。日本ではすごく単純に「これは命の話なんだ」と捉えてくださっていたように感じます。

死生観でいうと、日本人は比較的自殺というものを受け入れている節があると思うんです。大きな問題に直面したとき、日本人は死ぬという手段をすごく簡単に考えてしまう。確かに、国によってそういう微妙な差はあるのだとは思います。ただ、だからといって日本人の死生観に適合するように考慮して作品をつくっているわけではないし、そうした文化の差異が、作品の価値を如実に決定するというわけではないと考えています。

作品が広く世界に届けば届くほど、わたしが強く感じるのは、逆に人間の喜怒哀楽って意外とみんな共通しているんだな、人間ってそんなに変わらないんだな、ということなんです。ひょっとすると違いを見つけることのほうが難しいかもしれませんよね。

Children of the Sea

©️2019 Daisuke Igarashi・Shogakukan-“Children of the Sea” Committee

普遍的なものを描いていこうとするなかで、文化や国の微妙な差異が入り込んでくるということでしょうか。

田中:もともと自分が持ち合わせていないものをうわべだけで表現することはできないじゃないですか。自分たちが考えていることをそのまま出していくしかない。それが異なる文化や生活圏、あるいは異なる生きかたをしている人たちにどう受け止められるのかというのも、映画をつくって世界へと出ていく楽しみでもあったりします。

First-Squad

©MOLOT Entertainment Inc., 2009.

田中プロデューサーが過去に製作した『ファースト・スクワッド』*(2009)はロシアとの合作でした。すでに脚本もある状態でオファーがあったと聞いていますが、ロシアとの国際共同製作に取り組むにあたって難しかったことはありますか。

田中:まずは言語がまったく違うことですよね。ロシア語の脚本があったとしても、わたしたちは日本語に翻訳したものを読むので、翻訳者の能力に依存するところがすごく大きかったです。翻訳者が訳した日本語をそのまま信じるわけにはいかないですし、ロシア語のニュアンスなど文化的な差異があって理解できないということも起きます。

言い回しの長さひとつとっても、それを的確に翻訳できているのかどうかは、なかなか評価しにくいですよね。わたしがバイリンガルで、ロシア語にもすごく長けてればもっともっとやりやすかったのかもしれないですけど。そこが一番難しいところでしょうね。

*日本のアニメーション制作会社STUDIO4°Cとロシアの映画制作会社Molot Entertainmentが共同製制作したアニメーション映画『ファースト・スクワッド』(2009)。第二次大戦下のロシアで超能力を使い諜報・工作活動を行う若手育成部隊“ファースト・スクワッド”に所属する少女・ナージャの運命を描き、第31回モスクワ国際映画祭(2009年)にてコメルサント賞を受賞した。

確かにすべてロシアで製作されるのであればそういう困難は生じないですよね。本作は日本のアニメ制作会社を通したものの、まずはロシア人に向けてつくられました。

田中:日本人の視点が一度入ることで、それはロシアの作品ではなくなるんですよね。日本人が日本語で考えた文化しか表現できないので、いくらロシアについて熱心に研究して、映像ができたとしても、それは日本人が考えた「ロシア」の表現になってしまうと思います。

そうしたなか、『ファースト・スクワッド』はモスクワ映画祭でコメルサント賞を受賞されています。

田中:『ファースト・スクワッド』は、ロシアではじめて、本国の歴史をベースにした大人向けのアニメーションだったらしいんです。そういう新しいジャンルを開拓したというところに価値を見出してくださったのかなと思います。ただ、この作品が描く「悪と戦う」というテーマはわかりやすいですし、普遍的なものなので、必ずしもロシアのことを理解したから受賞できたとはあまり考えていません。

First-Squad

©MOLOT Entertainment Inc., 2009.

なるほど。今後も国際共同製作には挑戦していきたいと考えていらっしゃいますか。

田中:わたしはずっと世界に通用する作品をつくりたいという思いで映画をつくってきました。いろんな国のひとたちと一緒に映画をつくるのもそのためのひとつの手段ですから、機会があればもっとやっていきたいですね。

このたび「第53回日本映画祭」(JFFロシア)で上映された最新作『海獣の子供』や『ファースト・スクワッド』をはじめ、『鉄コン筋クリート』(2006)や『ベルセルク 黄金時代篇』3部作(2012~2013)などでも世界的にも高い評価を得てきた、田中プロデューサー率いるSTUDIO4℃。今回未踏の地であったロシアを訪れ、肌で観客の反応を感じた経験が意義深いものとなったことは想像に難くない。これからもどのような作品を世に送り出していくのか、ぜひ注目していきたい。

・JFFロシア(国際交流基金モスクワ文化センター公式サイト内)https://jpfmw.ru/jp/festival-kino/

・STUDIO4℃新作情報http://www.studio4c.co.jp/topics/post/20191225.html

・『海獣の子供』記事リンクhttps://www.japanesefilmfest.org/ja/all/animation/4579/

取材:高橋和也/編集:いしがみえみ

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