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『パパはわるものチャンピオン』:日本の父親の愛のかたち

父は、愛があるから時に戦う

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「僕の夢は大きくなることです。パパはとっても体が大きいけど、僕は小さいのでママのごはんをたくさん食べて、早くパパのようになりたいです。大きくなって力持ちになったら、人にやさしくなれると思うからです。」藤村亨平監督映画『パパはわるものチャンピオン』の主人公で小学生の大村祥太は、クラスで将来の夢を発表する。しかし祥太はこの時まだ、父が実際どんな仕事をしているのかよく知らない。漠然とわかっているのは、祥太の憧れる大きく強い体を活かした仕事、ということくらいだ。だが、それが明らかになる時がやってくる-ある日祥太はプロレスで、観客から嫌われるゴキブリのマスクをつけた男がリングで暴れるところを目撃し、衝撃を受ける。その「ゴキブリマスク」は外でもない、いつも優しい父親の孝志だったのである。

(c)2018 MY DAD IS A HEEL WRESTLER Film Partners

「パパ…?」祥太は、これが単なる悪い夢であってほしいと願うように呟く。親のことを恥ずかしいと思うのは、世界中の子どもが成長する過程で通る道かもしれないが、さすがにこれは衝撃が大きい。優しくておもしろい上に強く、銭湯に連れて行ってくれたり一緒に遊んでくれる父親が、皆んなの嫌われ者だったのだ。しかもそれが彼の職業なのだ。

本物の新日本プロレスチャンピオン・棚橋弘至が作中で演じるゴキブリマスクは、ヒールである。「ヒール」というのは悪役のプロレスラーで、観客に嫌われるのが仕事だ。孝志は、昆虫系悪役キャラという設定に忠実に、リングの下から這い出たり、床を這い回ったり、殺虫剤で攻撃するという卑怯な手を使うなど、この仕事を完璧にこなしている。ゴキブリマスクになる前はエースレスラーだったが、膝に怪我を負って以来レスリングを続けるにはヒールの道しかなく、それは身体に負担がかかることだったが、情熱を注ぐレスリング界に残るためならどんなことでもする。そうしないと惨めな人間、また暗い父親になってしまいそうだからだ。

そんな孝志の気持ちを知らない祥太は、憧れの父がゴキブリほど下等なものになりきることを仕事としていることにショックを隠せない。恥ずかしさ、怒り、失望に包まれ、どうして孝志がそんなことをしているのか理解することができない。そんな祥太に、母は父が家族のために一生懸命働いていることを教える。孝志は、良き父でいるために身体的負担を顧みず、プライドも犠牲にしている。そしてそれが孝志の息子への愛情表現なのだ。

本作のメインテーマは「愛情」、特に「父性愛」だが、日本でいう父性愛は他国のそれとは異質のものである。長時間の労働や頻繁な出張、また育児は母親の役割という文化が浸透していることもあり、外国人からしてみると日本人の父親は子どもに対して薄情であるかのように見えることが多い。確かに日本人はあまり感情を露にしない方かもしれないが、しかしだからと言って子どもに対して強い思いがないというわけではない。孝志のように、家族を守るため、また誇りに思われる存在であるために一生懸命になるのは、日本人の父親の愛情表現の方法の1つである。仕事で悪役を演じていても、決して本当に悪い人間なのではないということを孝志が身を以て証明するように、言葉ではなく行動で示すのだ。肉体的な苦痛、エースからヒールとなり傷つけられたプライド、健康、そして息子に正直に言えない仕事をする辛さなどは全て、孝志が子どものために犠牲にするものだ。

(c)2018 MY DAD IS A HEEL WRESTLER Film Partners

そして祥太は父のことを知れば知るほど、父の行動はいつでも祥太のことを思ってしてくれていたことだったのだと気が付く。父がレスラーでいるため、そして銭湯に連れて行ってくれる優しい父でいるために、皆んなに嫌われるゴキブリマスクである必要があるということも最終的に理解できるようになる。おとぎ話のようなエンディングではないが、現実的で人間味がある。

2011年から2018年の間に出版の作:板橋雅弘、絵:吉田尚令による人気絵本を原作とした『パパはわるものチャンピオン』は、家族全員で楽しめる作品だが、特に子どもの視聴者を念頭に置いて作られている。お父さんは自分より仕事の方が大事なのでは、と多くの子どもが考えることがある日本という国を舞台に描かれた本作は、愛情には多様なかたちがあることを伝え、父と子の絆を深める役割を果たしてくれそうだ。

(c)2018 MY DAD IS A HEEL WRESTLER Film Partners

映画からも見て取れるが、子どもとできるだけ共に時間を過ごすのが必ずしも愛ある日本人の父親像なのではなく、家族が少しでも楽な生活を送れるよう職場に身を捧げ、一生懸命仕事をするのも1つの愛のかたちなのである。わかりやすい愛情表現ではないかも知れないが、愛は愛だ。そしてそのことを教わるのなら、教材は大人気の複数タイトル受賞選手・棚橋(本作のためにトレードマークの長髪を切って登場)らによるエキサイティングなプロレスシーン満載の映画であった方がおもしろいだろう。犠牲を払うことが、時に至高の愛情表現とされる日本。そこにある父性愛の美しさをぜひご覧いただきたい。

キャスト:棚橋弘至、木村佳乃、寺田心、仲里依紗
監督:藤村亨平

文:ストゥルシェヴィッチ・ツェザーリ

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