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東京2020オリンピック公式監督・河瀬直美:傑作5選&最新作

フィクションとノンフィクションの狭間を渡る、才能豊かな監督

各オリンピック開催前に、国際オリンピック委員会と大会組織委員会は大会公式映画制作を希望する監督の中から選考を行う。選考基準は、「至極明白な物事の先を見据え、オリンピック開催地の文化をユニーク、かつ魅力的に捕らえる能力を有するかどうか」である。来る東京2020オリンピック大会の公式映画監督に就任が決定したのは、河瀨直美監督だ。彼女の日本文化並びにオリンピック精神の理解と過去の実績、また世界的な活躍が評価された。納得の選考結果だ。

河瀬監督は現在、日本で高く評価されている映画監督の1人で、オリンピック公式映画女性監督としては史上5人目。ドキュメンタリーの性質を持つ本公式映画で、原点に立ち戻る。離縁により両親と生き別れになった河瀬監督は、大伯母に育てられ、両親の不在は長期にわたるトラウマとなったが、これまでに制作した複数の映画作品を通してそのトラウマと向き合ってきた。そしてそれこそが、河瀬監督の独特な物語の紡ぎ方とドキュメンタリースタイル誕生のきっかけとなった。デビュー作『につつまれて』(1992)では、生後まもなく母と離婚した父を探す過程を追い、その後『かたつもり』(1994)では、育ててくれた養母との複雑な関係を記録する。そんな河瀬監督が、東京オリンピックをどのように記録し、「永遠」に残すのだろうか。監督の考えを理解するには過去作がヒントになる。これからご紹介する過去作品5選を振り返り、また今年公開予定の新作について予習しながら楽しみにしたい。

1. 萌の朱雀, 1997

奈良県山間部の村に住む田原家の主人・孝三は、村の鉄道建設が中止されたことで職に関する希望を失い、すっかり気力を無くしてしまう。その後、孝三は愛用の8ミリカメラを持って出かけたまま帰らぬ人となり、後のことは残された家族に任される。家族の失踪に伴う混乱や8ミリカメラでのドキュメンタリー制作などのテーマには、河瀬監督自身の経験が大いに影響していることが明白な本作。自伝的な要素が組み込まれた作品ばかりが河瀬作品ではないが、河瀬監督の独特な映画作りへの入り口としてお勧めしたい一作だ。

キャスト:國村隼、尾野真千子、和泉幸子

2. 殯の森, 2007

どちらかというと、物語の筋よりも感情の方に豊かさが際立つ『殯の森』は、妻を亡くし、認知症を患うしげきと息子を亡くし自らを責める新しい介護福祉士の真千子の物語。ある日、しげきの妻の墓参りに出かけた2人は、広大な原生林に足を踏み入れ、迷ってしまう。現実と非現実の狭間のようなこの不思議な場所で、死との向き合い方、死者を心に留めておく方法、また日本で高齢者が直面する問題などが取り上げられるが、それもはっきりと言葉で語られるわけではない。迫真の演技で魅せるしげきと真千子の旅を静観しながら、社会や人生を取り巻くたくさんのことについて考えさせられる映画だ。

キャスト:うだしげき、尾野真千子、渡辺真起子

3. 2つ目の窓, 2014

『2つ目の窓』は対照的な物事を通して語られる物語だ。作品全編を通して示唆される生と死のテーマは、溺死した男性の発見で始まる内気な少年・界人と外交的な同級生・杏子の恋を通して特に色濃く描写されている。親の存在があるからこその問題と失うからこその問題——2人の少年少女はそれぞれ家庭で問題に直面している。相対する物事が混ざり合い、互いに影響を及ぼし、陰陽が舞うかのごとく死は生に変わり、また死を予示する。

キャスト:村上虹郎、吉永淳、杉本哲太

4. あん, 2015

ドリアン助川の小説『あん』を原作とした本作は、ある老人・徳江の手作りのあんを口にし、徳江を従業員として雇うことにしたどら焼き店店長の物語。しかし、昔徳江がハンセン病を患っていたことが噂で広まり、解雇することを余儀なくされる——。ここで映画は、過去の呪縛から逃れ、自分に素直に生きるという本作の中心的テーマへと自然な流れで移っていく。この映画に何かメッセージが込められているとしたら、それは絶望や暗闇、受け身の姿勢に対して小さな抵抗を毎日積み重ね、精一杯五感を使って物事を体験し、生きる——そういうことだろう。

キャスト:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅

5. 光, 2017

『光』は、過去に河瀬監督が経験してきたテーマを研ぎ澄まし、磨き上げたような作品だ。腕の良い写真家・雅哉のキャラクターに監督の自伝的要素を投影し、雅哉が徐々に視力を失う姿を通して病について考えると同時に、もう1人の主人公・美佐子が父の死と母の認知症と向き合う姿を通して、家庭内の悲劇にも焦点を当てる。だが、非の打ち所のない感動的でドラマチックなストーリーに加え、本作で最も輝いているのは、河瀬監督の映画制作に対する愛情が感じられる、背景の鮮やかな景色、また煌めく映像ではないだろうか。

キャスト:永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴

6. 朝が来る, 2020

東京2020オリンピック・パラリンピック大会のタイミングで公開予定の『朝が来る』は、2015年出版の辻村深月作小説を原作とし、何年も不妊治療を続けた末、養子を迎える決意をする夫婦を追う。しかしその6年後、子どもの実の母親を名乗る人物から金を請求する脅迫メッセージが届くようになる。「家族」とは何か、また愛する者のために払う犠牲とは——?本作のこのテーマはもしかすると、オリンピックでの栄光を目指し世界中で戦う何百万人ものスポーツ選手たちを駆り立てるものの本質に迫った、丹念に考案された序章ということはないだろうか。

キャスト:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子

これらの河瀬監督の作品が示すように、世界の人々と共有するに値する物語の基礎には、偽りのない本当の姿、私たちを形成する人間関係、そして夢を叶えるために燃やす情熱がある。東京オリンピックを後世に残す大役に、河瀬監督以上の適任者はいなかっただろう。河瀬監督の今後の活躍に目が離せない。

文:ストゥルシェヴィッチ・ツェザーリ

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