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セミの鳴き声が聞こえたら:邦画に描かれる日本の夏の風物詩5選

暑く、湿度の高い日本の夏。それを象徴するものとは―。

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日本という国を象徴するものはたくさんある。それは、夏の季節という縛りを設けたとしても、特に変わりようのない事実だ。日本の夏には、日本人であれば誰もがその意味や大切さを理解し、受け入れている、シンボルとも言えるものが数多く存在している。今回は、「日本の夏といえばこれ」というような5つの代表的な風物詩を、それらが鮮明に描かれている邦画とともにご紹介する。口の中で溶けていくかき氷、肌にそっと触れる浴衣、写真に映える花火、降りしきるセミの声、そしてリズミカルに繰り広げられる盆踊り―これらがそろうのは日本の夏に他ならない。

 1.かき氷:単に氷、ではない

夏を象徴する食べ物はいろいろとあるが、日本人にとって最も馴染みがあるのはかき氷ではないだろうか。かき氷の歴史は古く、今から1000年以上前の平安時代からあるといわれている。当時は、冬に池などから採取した氷を保存しておき、夏の暑い時季に取り出してそっと削り、果物やお茶からつくった蜜をかけて食べるという、貴族のみが楽しめる贅沢品だった。ようやく庶民が口にできるようになったのは、氷が世に出回るようになった19世紀のことである。今では一年中手に入るものとなったが、アイスクリームのようになめらかで、シャーベットのようにさっぱりしており、ソフトクリームのように口溶けが良いかき氷は、やはり暑くて湿気の多い夏、特に夜のお祭りで大人気の食べ物だ。

かき氷を題材にした映画の一つに、人気作家よしもとばななの同名小説を映画化した作品「海のふた」(2015年)がある。主人公は、都会での生活に疲れ、生まれ故郷である静岡・西伊豆に帰ってきたまり(菊池亜希子)。子どもの頃から大好きなかき氷のお店を開き、新しい人生を歩み出そうとする。ただ、まりが目指しているのは、一般的なかき氷ではなく、厳選した水と手作りのシロップを用いたこだわりのかき氷だった。さまざまな種類の手作りかき氷を目で味わえる、かき氷好きには特にたまらない作品だ。

2.夏祭り:人と人とのつながりの証

「祭り」の語源が「祀る」ということからもわかるように、もともとは神を祀る儀式である祭り。はっきりとした四季のある日本では、春の祭りは豊穣を祈るため、秋の祭りは豊穣に感謝するため、そして冬の祭りは一年の終わりと新しい年の始まりを祝うため、とそれぞれに意味があった。なかでも、最も盛大に祝われているのは、昔も今も変わらず夏祭りだ。先祖の霊を供養するお盆と密接な関係がある夏祭りは、人と人とのつながりの証でもある。寺や神社で行われるものをはじめ、地元の企業や商店が協賛し、自治会や町内会が実施するものまでさまざまな祭りがあるが、共通しているのは参加者全員で楽しい時間を過ごすということだ。立ち並ぶ食べ物の屋台、鳴り響く太鼓の音、盆踊りを楽しむ人々、そして暑さを吹き飛ばすかき氷。これらが典型的な夏祭りの光景を作り上げている。

祭りは多くの邦画で幾度となく描かれているが、なかでも祭りと人々とのつながりを鮮明に描写しているのが石橋冠監督の映画「人生の約束」(2016年)だ。物語の主人公は、仕事で成功しながらも決して幸せとはいえない日々を送っている中原祐馬(竹野内豊)。あることをきっかけに訪れた小さな町で、祭りで使う曳山を近くの町から取り返してほしいという依頼を受ける。自分の後悔と向き合い、新たな約束を果たすため、祐馬は奔走し始める。江戸時代から約350年続く富山県の曳山まつりを題材にした本作品は、「祭りとは年齢や社会的役割などの垣根を超えて人と人がつながるもの」であることを私たちに教えてくれる感動のヒューマンドラマだ。

3.花火と浴衣:夏の一大イベント、そして人々を魅了する夏の装い

日本のシンボルといえば桜。それに次ぐものといえば、世界トップクラスの技術を誇る花火だ。日本における花火の歴史は慶長18年(1613年)、駿府城を訪れた英国人使者が徳川家康の前で披露したのが始まりだといわれている。それから120年後の享保18年(1733年)には、今でいうところの花火大会が初めて開催された。当時は「両国の川開き」と呼ばれていた、隅田川花火大会である。前年の大飢餓や疫病で亡くなった大勢の死者の魂を鎮めると同時に、生き残った人たちを慰め、元気づけるために行われたもので、その初日に夜空を彩る花火が打ち上げられた。以来、花火大会は、ぜひとも参加せねばならない夏の一大イベントとして位置づけられているのである。毎年7月から8月にかけて、日本の至る所でありとあらゆる趣向を凝らした花火大会が開催され、観る者の心を魅了している。日本人にとって花火は、単ににぎやかなお祝い行事ではない。夏、希望、若さ……そして恋。さまざまな夏の思い出を象徴するイベントなのだ。

花火大会に出かける際は、暗黙の “ドレスコード” のようなものが存在する。それは浴衣。絶対に着ないといけないというプレッシャーはないのだが、夏の一大イベントとあって、艶やかな浴衣をまとって出かける若者が近年増えている。着物の夏バージョンとみなされている浴衣は、生地の薄さと軽さから、今では夏の行事に欠かせないものとなっている。歴史は古く、もともとは平安時代に貴族たちが蒸し風呂(当時は湯につかる習慣がなかった)へ入る際に着用した麻の着物、湯帷子(ゆかたびら)が原型とのこと。江戸時代に入り、銭湯が普及すると、庶民の間にも広まっていった。なお、現代の浴衣は、一般的には、若い人を対象としたものほど、色や柄がはっきりしているものが多い。子どもにはパッと鮮やかなもの、若い女性には花がモチーフになっているもの、年配の女性には落ち着いた色合いと柄でしっとりとした印象を与えるものというように、年齢に合わせたさまざまなデザインがある。

日本人にとって花火(そしてそれを観る際に着る浴衣)がどういう意味を持つかを鮮明に描いた映画が、国本雅広監督の「おにいちゃんのハナビ」(2010年)だ。主人公は、白血病を患っている華(谷村美月)と引きこもりの兄・太郎(高良健吾)。弱っていく妹を元気付けるために、花火を上げることを決意し奔走する兄。そんな実際にあったエピソードを基につくられた、涙なくしては観られない作品だ。

4.セミ:短くも充実した一生

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日本人にとって、セミの激しく、甲高い鳴き声は、夏が本格的に到来したと感じるきっかけの一つだ。夏という季節とセミには密接な関係があり、それゆえに、夏が舞台のテレビ番組や映画には必ずといって良いほど、その鳴き声が取り入れられている。興味深いことに、日本には実に30種類以上ものセミが生息している。3年から17年もの長い年月を土の中で過ごした後、地上に出てきて成虫になると、そこからの寿命は平均してたったの1週間。その儚さは、咲くとすぐに散りゆく桜を彷彿とさせ、短くも充実した一生―あるいは、ある人が長年追い続ける夢や、ひた隠しにしている憧れの念―のシンボルとして描かれることが多い。

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©2005 Semishigure Production Committee

セミがもつ “束の間感” がテーマになっている映画の一つに、黒土三男監督の「蝉しぐれ」(2005年)がある。舞台は江戸時代の東北地方。海坂藩の下級藩士である牧文四郎(市川染五郎)の父・助左衛門(緒形拳)は、城内の世継ぎ問題に巻き込まれ、冤罪によって切腹を命じられる。謀反を起こした男の息子としてつらい日々を送る文四郎だったが、幼いころ隣家に住んでいた幼なじみのふく(木村佳乃)のことが忘れられずにいた。一方、殿の江戸屋敷の奥に勤めることになり、江戸へ向かったふくは、殿の側室となり子を身ごもりつつも、やはり文四郎のことを想い続けていた。相思相愛でありながらも、会うことが叶わない二人。だが、長い年月が経ったある日、ふとしたきっかけで、初めてお互いの気持ちを伝え合うことができるのだった。長いこと暗闇の中で生きた後、たとえ一瞬でも自由を手にし、満ち足りた時を過ごす―。そんな文四郎とふみの人生は、短くも濃密なセミの一生と見事に重なり合う。

5.盆踊り:夏を連想させるリズム

夏に日本各地で催される盆踊り。盆踊りというものを正確に理解するには、まずお盆についておさらいをせねばならない。お盆とは、毎年8月15日ごろを中心に執り行われる先祖供養の儀式のこと。一般的には、13日の夜に迎え火をたいて先祖の霊を迎え入れ、16日の夜に送り火で霊を送る。この間は、仏壇や盆棚に果物やお菓子、ご飯、水、花などを供え、墓参りをして故人を偲び、墓前で感謝や哀悼の意を伝える。そしてこの時期に行われる盆踊りも、もともとはお盆に帰ってきた先祖の霊を迎え、そして送るための宗教行事だった。太鼓の音色に合わせてゆっくりとリズムを刻む盆踊りは、その踊りやすさもあって、日本の伝統や文化として定着してゆき、近年では夏祭りのハイライトともいえるイベントになっている。

日本三大盆踊りの一つ、岐阜県郡上市八幡町の「郡上おどり」を題材にした映画が、小林要監督の「さよなら夏休み」(2010年)だ。400年もの歴史があるこの盆踊りは、7月中旬から9月上旬にかけて33夜にわたって行われ、お盆の時期には徹夜おどりも開催される。作品は、母親の事情で東京を離れ、郡上八幡の寺に預けられた裕史(緒形直人、幼少期は千阪健介)の成長を描いたヒューマンドラマ。大人になり、自身の子どもを連れて30年ぶりに町を再訪した裕史は、郡上の変わらぬ美しい自然とそこで暮らす温かい仲間に迎えられる。人と人とのつながりについて、改めて考えさせられる作品だ。

日本の夏には、実にさまざまな風物詩が存在する。食べ物(かき氷)にはじまり、服装(浴衣)、娯楽(花火)、自然(セミ)、そして行事(盆踊り)。一つの季節を象徴するものがこれだけそろっている国は、世界的に見てもめずらしいのではないだろうか。今回ご紹介したのは、日本の夏の雰囲気を味わいたい外国人はもちろん、自分の国の伝統や文化、風習の魅力を再発見したい日本人にとっても、おすすめの映画だ。

文:Anisa Kazemi-Manshadi

翻訳:佐藤彩

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