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「万引き家族」だけではない―人間の本質を捉えた是枝作品5選

パルムドール受賞監督の見逃してはならない名作

2018年5月、フランス・カンヌ。世界中の映画ファン、評論家、メディア関連の人々が、とある名前が明かされるのを心待ちにしていた。「パルムドール」―カンヌ映画祭における最高賞―の今年の受賞者だ。是枝裕和、「万引き家族」。名前が響き渡ると、会場は拍手に包まれ、日本全体が歓喜に沸き、映画評論家は皆、同感だというように頷いた。是枝監督は映画ファンの心を掴む作品を長年作っており、彼の受賞は誰しもが納得するものだった。

「日本映画におけるヒューマニズムの巨匠」(米「Film Comment」誌)、「常に心が込もった映画を作る日本の巨匠」(AFP通信)などとメディアに称される是枝氏は、いま世界で最も称賛を浴びている日本人監督の一人だ。日本家庭(のしばしば見えない側面)の実態をそっと垣間見せる作品を生む名匠として、20年以上にわたり評価されてきた是枝監督は、人として生きることの温かさと不完全さを映し出す。さらに具体的にいうと、ここ日本において人が人として生きる意味を描いた作品を、数多く世に送り出している。

是枝監督の華々しい経歴は、現実の世界で生きる実際の人々の物語を繊細に伝える、その手腕によるところが大きい。たとえば、苦難に耐え忍ぶ主人公ら。日本のように社会秩序が保たれた国でこんなに苦しい状況が存在するという事実を、観客は想像することすら難しいであろう。是枝氏は、人が変わることで生じる痛み、あるいはそれの欠如を、登場人物たちが最終的に受け止め、そして受け入れる過程を描いている。作品を通して、長いあいだ目を背けられ、無視されてきた日本の一面を明らかにするとともに、それが他の側面と同様に現実に存在するということを伝えているのだ。

監督のパルムドール受賞を記念して、受賞作品である「万引き家族」より以前に公開された作品を5つご紹介する。いずれも、「万引き家族」と同様に真実を明るみに出し、観る者の心を惹きつける、人間の本質を巧みに捉えた映画だ。

 ワンダフルライフ(1999年)


「死後の世界は存在する」―このヒューマンドラマが伝えようとしているメッセージはシンプルで、冒頭から明らかだ。もしあの世に、思い出をたった一つ、自分のもっとも貴重な思い出を一つだけ持っていけるとすれば、それは何になるだろうか?

この映画では、生から死への移行はまず、「リンボ」と呼ばれる天国への入り口から始まる。リンボの施設では、最近亡くなった人が、来世で再び体験したいと思う思い出を一つ選択する。死者が来世に行くまでに、一人ひとりその思い出を語ることで、リンボの職員がその思い出を映像化し、次の世で繰り返し再生できるようにするという仕組みだ。この映画を観ると、我々が思い出の価値をどう測るのか、思い出を保存あるいは消去するために用いる方法が有効なのかについて考えさせられる。是枝監督は、役者を意識するのではなく、一般の人々の本当の思い出をベースにこの映画の脚本を執筆した。そうすることで、死の描かれ方に疑問を投げかけるとともに、「死」を通して「生」を浮かび上がらせたのである。

キャスト: ARATA、小田エリカ

誰も知らない(2004年)


実際に起きた事件を題材とした「誰も知らない」は、母親に置き去りにされた4人の子どもが大都会東京で生きる様を追った映画だ。舞台は、子どもたちが住む小さなアパートの一室。親代わりとなった長男の明(あきら)以外は皆、母親から外出を禁じられており、この閉ざされた空間で生活している。父親がそれぞれ異なる4人の子どもたちは、カップラーメンで食いつなぎ、おもちゃのピアノで遊び、いつの日か外に出て羽田空港で飛行機を見るという遠い夢を抱いていた。是枝監督はこの作品で、5歳から12歳の子どもたちが対処しようのない貧困と苦境にあえぐ様を観客に見せつけ、現実を理解するよう表立って促しているわけではない。ドキュメンタリーと淡々としたドラマの間のような立ち位置に仕上げることで、観る人が徐々に少しずつ現実を消化できるようにしているのである。

キャスト: 柳楽優弥、北浦愛、YOU

そして父になる(2013年)

6歳の息子が、自分たちの本当の子どもではないと知った一組の夫婦。出生時に取り違えられた二人の男の子は、まったく異なる家庭で育っていた。育児を妻に任せっきりにしていたビジネスマンの良多は、血のつながった実の息子、あるいは6年間育ててきた他人の子どものいずれかを選ばないといけないという苦しい立場に立たされる。自身の父親には何よりも血のつながりを重視すべきだと諭される一方、妻からは自分たちが育ててきた子どもを選んでほしいと促される良多。自分たちが愛するものをどう大切にするのか、また、そのような対象が無いという危険な状態が私たちをどう変えてしまうのか。そして何よりも、私たちはどのようにして親になるのか―。「そして父になる」は、このようなデリケートなテーマを扱っている作品である。観客は、登場人物がお辞儀を交わしたと思ったら、ひそひそ声で話したり、はたまた声を荒らげたりと、緊迫したシーンが続く本作品に引き込まれる一方で、それらがすべて「子どもの幸せのために」という親の考えによって引き起こされた言動だという皮肉に気がつくことになる。

キャスト: 福山雅治、真木よう子、リリー・フランキー

海よりもまだ深く(2016年)

今を生きる家族を軽快なタッチで描き、観る者の心を温かくさせる映画「海よりもまだ深く」。主人公は、興信所勤めをしている良多。かつては受賞歴のある作家だったが、長らく執筆活動を行っていないうえ、ギャンブル問題を抱えており、人生のどん底にいた。家族との関係を修復しようと試みるも、元妻はとうの昔に彼に愛想を尽かしており、姉は良多が二人の母親からお金を借りているのではないかと訝しんでいる。そして、良多もまた、姉が母親に借金をしているのではないかと疑っていた。そんな良多はある日、別れた元妻が育てている息子との絆を深めるため、外に出る。嵐の中、人間の存在意義について二人が語るシーンは、多くの人々に感動を呼び起こした。過去の間違いを正そうとする登場人物らは、その生き生きとした様子で、観る者に笑いやゆっくりとした感情の移ろいをもたらす。「海よりもまだ深く」というタイトルは、いったい何を意味するのか。そう考えずはいられない作品だ。

キャスト: 阿部寛、樹木希林、真木よう子

三度目の殺人(2017年)

「三度目の殺人」は司法制度の真の目的や、それに携わる人々の哲学的な倫理に対する是枝監督の関心にインスパイアされた、犯罪スリラー映画だ。ある男が、有罪判決を受けたら確実に死刑になるという凄惨な犯行について自供する。ところが彼は、弁護士である重盛に会う度に供述を変え、次第に重盛も事件にまつわる証拠や状況について疑問を抱くようになっていく。この男に容疑がかかっているのは、過去に起こした犯罪のせいなのか?動機は何なのか?人間を殺すという行動を正当化できるのか?そして、死刑の正当性とは―?家族を題材にした他作品とはひと味違うが、不完全さを抱えた人間の存在を描いている、是枝監督の持ち味が光る映画だ。

キャスト: 福山雅治、広瀬すず、役所広司

是枝監督の映画において、折に触れて明確に存在するのは乖離だ。それは、埋める必要のある何かだったり、変わることを求められる何かだったりする。たとえば、いなくなった母親、見つけなければならない本来の自分、理解できない家族、あるいはどうしても飲み込めない考え。是枝氏の映画に浸るのは、花が開いていく様子を観察するようである。花びらが散り、いつしか下へ落ちるように、観客は穏やかに、しかしつらい現実に気づくのだ。そして、自分自身の、特に心や意識について、学ぶべきことがたくさんあるという現実にたどりつくのである。

翻訳:佐藤彩

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